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海外の研究から考える、小学校におけるADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもの問題行動を減らす指導法

初等教育(小学校)
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 児童期におけるADHDを持つ子どもはおよそ10人に1人と言われています。
 さらに、発達障がいを持つ子どもは、全体のおよそ6.5%と言われていますので、学習や生活環境に気を配られている方は多いのではないでしょうか?
 今回は、2021年の研究から見える、ADHDを持つ子どもの問題行動を減らすための効果的な指導方法についてご紹介します。 

 ※今回の記事は海外の論文を参照しているために意訳を含みます。

効果的なADHDへの指導の種類は2種類

 効果的な指導方法について、論文では2つの指導法が良いという結果が出ています。
 その方法は「先行介入」(Antecedent-based Intervention)と「結果介入」(Consequent-based Intervention)の2種類です。
 また、以下の二つの方法は、IQ、ADHDとODDの症状の重症度、学校の課題、問題行動のベースライン評価に関係なく効果があると認められるようです。

先行介入とは

 明確なルールを提示し、同じく明確な指示を子どもに与え、事前に子どもが陥るであろう、困難な状況について話し合い、学習する時間と空間の構造を提供する方法。

 具体的には以下のようになります。

(例)算数の時間で一定の時間、問題を解く場面。
 望ましい行動:教師に助けを求めることなく、算数の学習で5分間一人で作業できる。

  1. クラス全体の指導の後に、教師が適切な個別の指示を与える。
  2. 作業の進め方や、問題(疑問)が生じたときに、どう対処したらよいかが分かる計画表(絵付き)を用意する。
  3. 残り時間を表示するための子どもの机にタイマーを置く。

 このように、先行介入とは、子どもが学習を行う上で躓きそうな場面を想定し、それに対して事前に分かりやすい対処法や指示を与えておく方法です。
 これは学校現場において、多く用いられている方法と言うこともできるでしょう。

結果介入とは

 望ましい行動がまだ子どもが出来ていないとき、「賞賛」、「報酬」、「計画された無視」、「否定」によって、望ましい行動を引き出す方法。

 具体的には以下のようになります。
(例)算数の時間で一定の時間、問題を解く場面。
 望ましい行動:教師に助けを求めることなく、算数の学習で5分間一人で作業できる。

  1. 教師が頻繁に子どもの(こちらが狙っている)望ましい行動(例えば、子どもが静かに問題に取り組むこと)をしているときに褒める、または親指を立てるなどの肯定的行動をとる。
  2. 自分の学習に取り組んでいる他の子どもたちを称賛する。
  3. 教師は子どもの注意を引こうとする行動(先生の名前を呼ぶ、手を上げるなど)をすべて無視する。

 このように、結果介入とは、子どもが学習を行う姿や生活の様子の中で、私たちが狙う望ましい方法に対して肯定的に接し、望ましくない方法に対して否定的に接する方法です。

先行介入と結果介入の効果は年齢によって変わる!

 先に述べたとおり、二つの方法はIQ、ADHDとODDの症状の重症度、学校の障害、問題行動のベースライン評価に関係なく効果があるという結果が出ています。
 しかし、一方でこれらの手法については、適切な年齢が存在するという結果も出ています。

 本論文において、6〜12歳の子どもの内、年齢が低い子どもには、結果介入の方が効果的であり、年齢が高い子どもには、先行介入の方が効果的であることが分かっています。
 教員として働いていた経験では、1〜3年生は結果介入を中心に、5〜6年生は先行介入を中心に行うことが効果が高く出るでしょう。
 なお、4年生は私が知っている子どもの発達の割合上、低学年と高学年の中間にあたるので、双方とも行うことが望ましいように思います。

 この教育方法は、子どものやる気を起こさせる方法と一致していきます。
 年齢が低い頃は、周りの人に褒められることでやる気を出す子どもが多いのですが、年齢が上がると、褒められるよりも、自分で考えて一人でできる、という方がやる気を出しやすい、というのは皆さんご存知のことかもしれませんね。

 なお、先行介入、結果介入、どちらか一方の取り組みを行ったとしても、効果が出てくることが分かっています。
 また、これらの指導を行うことで、指導開始直後のみならず、3ヶ月後にも子どもが落ち着いている状況をつくることができるという報告が行われています。

終わりに〜高学年の先行介入は丁寧に〜

 今回の内容はいかがだったでしょうか。
 私も教員をしているなかで、多くの子どもたちを見てきましたが、ADHDを持っている子どもたちへの指導方法は学校全体の課題として挙げられます。

 そして、私を含め、教員をしていると、「高学年だからこれくらいはできるだろう」という考えに囚われがちになることがあります。
 しかし、年齢が上がるほど、一つ一つの課題の内容が複雑化していたり、我々の「当たり前」を前提とした内容になっていたりと、子どもたちの手には負えなくなってくることが増えていきます。
 そこで、高学年であるからこそ、課題の解法を細かく指導する、視覚的に分かりやすくする等の支援が必要になってくるのです。

 子どもの教育をしていく上で、教師が持ちがちな「これくらいできるだろう」という考えを一度、傍に置いておきましょう。
 そして、子どもの現状を素直に見て、子どもが望ましい行動ができるよう、学年、学校全体で子どもたちの指導方法を考えていきましょう。

保護者のみなさまへ

 ADHDを持ったお子さんがいると、学校生活のみならず、家庭での生活において、困難を感じていらっしゃる場合は、学校及び、病院への相談が大切になります。
 個人で抱え込んでしまうと、親御さんへのストレスがとても大きくなる場合があります。
 抱え込みすぎないように気をつけて下さいね。

 今回の記事の内容について、家で取り組まれる際は、他の子どもと比較せずに、子どもの良い所を褒めることや、やることをリスト化するなどの方法を試してみて下さいね。

参考論文

  • Effectiveness of Specific Techniques in Behavioral Teacher Training for Childhood ADHD: A Randomized Controlled Microtrial(2021)Anouck I. Staff ,Barbara J. van den Hoofdakker,Saskia van der Oord,Rianne Hornstra,Pieter J. Hoekstra,Jos W. R. Twisk,Jaap Oosterlaan &Marjolein Luman

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